私たちの物語

美味さ、ありき。

山政小山園、製茶場。そこは、工場というよりも工房だ。情熱と探求心に、支配されているのだから。

鎌倉時代に明恵上人によって茶の実がもたらされたという伝承とともに、日本の茶の聖地であり続ける宇治。幕末以前は茶農家であったという山政小山園は、いまもこの地に自らの茶園を持つ茶問屋だ。

その味と香りで茶道用抹茶の世界において広くその名を知られる存在となった現在も、原点を見失うことなく、宇治の地で茶葉の成長と日々向き合っている。

だからだろうか、宇治を中心とする京都南部の一帯に芽吹いた、最良の茶葉が集められる山政小山園の製茶場は、工場というよりは工房と呼ぶにふさわしい空気を湛えている。

鮮やかな緑の階調を見せる茶葉を扱う職人たちの姿勢は、さまざまな緑の顔料や染料を用いて繊細な世界を紡ぎ出していく絵師のよう。五感を研ぎ澄ませて、その色合いと香気、風味や手触りを確かめ、そうして理想とする茶を実現するため原料茶葉を調合する作業を繰り返す。

機械に任せるのではなく、数値に置き換えるのでもなく、代々積み重ねられてきた知恵と、自らのうちに息づく感性を頼りに、彼らは最高の抹茶に至る道を探るのだ。そして、その美味さに惚れこみ信頼を寄せる、全国千を超える茶店へ届けられてゆく。

美味さありき、を貫く技術と感性。生産家と茶店の信頼を丁寧に紡ぐ誠実な姿勢。感性の経糸と信頼の緯糸が織りなす、一服の芸術。

そう、この製茶場という空間を静かに支配するのは、間違いなく職人一人ひとりの情熱と、そして探究心だ。

山政小山園が生み出す茶とは、文字通りそんな想いの美しい発露であるに違いない。